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親に「免許返納」を切り出せない日、遠方に住む子どもができること

父が救急搬送された日、駆けつけた病院の駐車場で、父の車のバンパーに見覚えのない傷を見つけました。「これ、いつのだっけ」と聞いても、父は目を逸らして「知らん」の一言。入院の手続きに追われているうちにその傷のことは頭の片隅に追いやられ、結局、免許の話を切り出せないまま今日まで来てしまいました。同じように「そろそろ危ないかもしれない」と感じながらも、言い出せずに先延ばしにしている方は、きっと私だけではないはずです。

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免許返納の話が、こんなに言い出しにくい理由

子どもの側からすれば「事故になる前に」という善意の提案のつもりでも、親からすると受け取り方はまるで違います。運転をやめることは、単に移動手段を失うことではなく、「買い物に一人で行けなくなる」「孫の送り迎えを頼まれなくなる」「自分でできることが、また一つ減っていく」という自立の喪失そのものとして響いてしまうからです。長年ハンドルを握ってきた自負がある親ほど、この提案は「年寄り扱いされた」という受け止め方になりやすいものです。頭では分かっていても、いざ切り出そうとすると言葉に詰まる。それは、決して親子関係が悪いからではありません。

「遠くに住んでいる子ども」だからこその難しさ

同居していれば、日々のヒヤリとした場面や、駐車が下手になった様子を自分の目で確かめながら、少しずつ言葉を選んでいくこともできるでしょう。でも遠方に住んでいると、親の運転を実際に見る機会はほとんどなく、年に数回の帰省や電話越しの様子から判断するしかありません。電話だけで伝えようとすると、声のトーンや間合いが伝わらない分、こちらの心配がそのまま「詰問」や「説教」に聞こえてしまいがちです。かといって、久しぶりの帰省でこの話を切り出せば、「せっかく帰ってきたのに、その話をするのか」という空気になりかねず、結局また先送りにしてしまう。距離があることは、心配の熱量が伝わりにくいのと同時に、切り出すタイミングそのものを難しくしているのだと思います。

切り出すタイミングと言葉選びで、変わることがある

専門家への取材記事などを読むと、共通して挙げられているのが「危ないからもうやめて」「もう歳なんだから」といった言い方は、プライドを傷つけて逆効果になりやすいということです。反対に、「最近ちょっと心配で……」「一緒に考えてもらえないかな?」というように、相手を主語にせず、自分の気持ちとお願いとして伝える言い方は受け止めてもらいやすいとされています。中には、説得する側が「自分も◯歳になったら運転をやめようと思っている」と、先に自分ごととして話すことで、親が構えずに話を聞いてくれたという例も紹介されていました。

家族の言葉には耳を貸さなくても、かかりつけ医など第三者の言葉には素直に従うという方もいます。健康診断や通院のタイミングで、医師から一言添えてもらえないか相談してみるのも一つの方法です。

遠方に住んでいるなら、久しぶりの帰省でいきなり本題に入るのではなく、電話の雑談の中で車検や保険の更新時期の話題からさりげなく触れてみる、次の帰省では免許の話ではなく「これからの暮らし方」について一緒に考える時間を作る、というように、何回かに分けて少しずつ温度を上げていくやり方の方が、結果的にうまくいくことが多いようです。一度で決着をつけようとしないことが、遠方に住む子どもにとってはむしろ現実的な作戦になります。

「返納したらどう生活するか」を、先に一緒に考えておく

免許を返してほしいと伝えるだけでは、親からすれば「じゃあ、その後どうやって病院に行けばいいんだ」という不安が残ったままです。運転免許を自主返納すると、身分証明書として使える「運転経歴証明書」の交付を受けられるほか、都道府県警察や市区町村によっては、返納者向けにタクシーやバスの割引券・乗車証などの支援を用意している例もあります。

ただし、こうした支援の内容や申請できる期間は自治体ごとにかなり差があり、住んでいる地域によっては対象外の制度もあります。断定はできないので、親御さんが住む市区町村の窓口や、地域の警察署のホームページで具体的な内容を確認してみてください。帰省したときに「一緒に調べてみようか」と、スマートフォンやパンフレットを一緒に眺める時間を作るだけでも、返納後の生活が「奪われるもの」ではなく「一緒に考えるもの」に変わっていくはずです。終活全般の進め方については、終活、何から始める?60代がやるべき10のことでも触れているので、免許の話をきっかけに他の準備にも目を向けてみるのもおすすめです。

反発されたときに、遠方だからこそ意識したいこと

一度伝えただけで、すんなり納得してもらえることの方が少ないと思っておいた方がいいかもしれません。反発されたときにやりがちなのが、限られた帰省の時間で結論を出そうと畳みかけてしまうことです。でも、その場で決着をつけようとするほど、親は意地でも譲らなくなることがあります。今日話したことを持ち帰ってもらい、次に会うときや電話のときにまた少し話す。そのくらいのペースで構わないはずです。

実家の片付けや生前整理でも、親が抵抗するのにはちゃんと理由があり、時間をかけて向き合う必要があるという話を「抵抗する親」とどう向き合う?実家の片付け・生前整理を無理なく進める方法という記事に書きました。免許返納も根っこは同じで、「わがまま」ではなく自然な感情の反応だと捉えられると、こちらの気持ちも少し楽になります。もし物忘れが増えた、道に迷うようになったなど、単なる運転の上手下手を超えた様子が見られる場合は、家族だけで抱え込まず、地域包括支援センターやかかりつけ医など専門家に相談する窓口も検討してみてください。

今日、切り出せなくてもいい

免許を返す日は、いつか必ず来ます。でも、それを今日この電話で決めなくてもいい。まずは「最近ちょっと心配で」の一言を、次に話すときの頭に置いておくだけでも十分な一歩です。私自身、あの日見つけたバンパーの傷について、今もまだきちんと話せていません。それでも、少しずつ話題に出す回数を増やしてきたことで、以前よりは親も「そろそろかもな」と口にするようになりました。焦らず、でも先延ばしにしすぎず。遠くに住んでいても、できることは確かにあります。

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この記事を書いた人

親の入院をきっかけに、何も準備していなかったために手続きで慌てた経験があります。相続や葬儀の話は元気なうちは後回しにしがちですが、いざという時に困る人を1人でも減らしたいと思い、実体験をもとに発信しています。

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