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実家じまいは何から始めるべき?――片付けを先にやると相続放棄できなくなるかもしれない話

実家じまいと相続放棄のイメージイラスト

実家じまいの体験談やSNSの投稿を追いかけていると、ときどきこういう話に出会います。「とにかく実家を片付け終えてから、親の借金に気づいた。急いで相続放棄しようとしたら、司法書士さんに『それはもう難しいかもしれません』と言われた」――。

うちも実家じまいを進めている最中なので、この手の話は正直ヒヤッとします。実家じまいというと「まず片付けから」というイメージが強いと思うのですが、親に借金や連帯保証、使っていない不動産などがある可能性が少しでもあるなら、片付けに着手する前に確認しておくべきことがあります。それが今回のテーマ、「相続放棄」と「片付け」の順番の話です。

※この記事は2026年10月時点で公表されている情報をもとに、法務省・国税庁・国土交通省などの公的な資料を確認しながら書いた個人のまとめです。相続放棄をするかどうかの判断や、期限が迫っているケースなど重要な判断については、必ず司法書士・弁護士などの専門家に相談してください。

目次

片付けの前に、まず確認したいたった1つのこと

実家じまいの「本当の順番」については、以前実家じまいで後悔する人の共通点――後悔しないための本当の順番で「①家族会議→②お金→③片付け→④不動産」という流れをまとめました。今回はその中でも、特に見落とされがちな「③片付け」に入る前のチェックポイントを掘り下げます。

結論から言うと、片付けを始める前に確認したいのはこの1点です。

親に借金・連帯保証・使い道のない不動産など、「相続したくないかもしれない財産」がある可能性はないか?

少しでも心当たりがあるなら、片付けに手をつける前に、相続放棄という選択肢を頭の片隅に置いておく必要があります。「うちは大丈夫」と思っていても、通帳を見たら知らない借入があった、という話は実家じまいの体験談でもよく見かけます。

なぜ”片付け”が相続放棄の足かせになるのか――法定単純承認という落とし穴

相続には大きく3つの選択肢があります。プラスの財産もマイナスの財産もすべて引き継ぐ「単純承認」、プラスの範囲内でマイナスも引き継ぐ「限定承認」、そしてすべてを引き継がない「相続放棄」です。

ここで問題になるのが、民法921条が定める「法定単純承認」という制度です。これは、相続人が次のいずれかの行為をすると、たとえ本人に単純承認するつもりがなくても、法律上当然に単純承認したものとみなされる、という仕組みです。

  1. 相続財産の全部または一部を処分したとき(保存行為などを除く)
  2. 自己のために相続が開始したことを知った時から3ヶ月以内に限定承認・相続放棄をしなかったとき
  3. 限定承認・相続放棄をした後で、相続財産を隠匿したり、こっそり消費したりしたとき

実家じまいとの関係でとくに注意したいのが①です。「処分」には、不用品を売る・捨てるだけでなく、預貯金を引き出して使う、遺品の中の価値のある物(骨董品、貴金属、車など)を売却する、といった行為も含まれる可能性があります。つまり、相続放棄を考えているかどうかに関係なく、実家の片付けに手をつけた時点で「もう単純承認したことになっているかもしれない」というリスクが生じるのです。

一方で、形見分けのように経済的価値のほとんどない私物を整理したり、傷みやすい食品を処分したりするような「保存行為」は、単純承認には当たらないとされています。ただし、この線引きは実際にはケースバイケースで判断が分かれる部分でもあり、「これは処分」「これは保存行為」と素人が自己判断するのは危険です。少しでも判断に迷うものがあれば、処分せずにそのまま残しておき、専門家に確認してから動くのが安全です。

なお、相続放棄が家庭裁判所に受理された「後」であれば、残った相続財産を処分しても法定単純承認には当たらないとする考え方もあります。つまり、片付けそのものがダメなのではなく、「相続放棄をするかどうか決める前に、財産に手をつけてしまうこと」が問題になる、と理解しておくとわかりやすいと思います。

相続放棄の「3ヶ月」はいつから数える?

相続放棄をするかどうかを決めるための期間は、民法915条で「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」と定められています。これを「熟慮期間」と呼びます。

ポイントは、「被相続人が亡くなった日」からではなく、「自分が相続人になったと知った日」から数える、という点です。多くの場合は亡くなったことを知った日と同じになりますが、たとえば先順位の相続人が全員相続放棄をしたことで、自分に相続権が回ってきたと知った場合は、その事実を知った日が起算日になります。

3ヶ月というと余裕があるように感じますが、実際にやることは葬儀、各種手続き、遺品整理の検討などが重なり、あっという間に過ぎてしまいます。しかも、この3ヶ月は「家庭裁判所に相続放棄の申述書を提出する」ための期限であって、話し合いや書類集めをのんびり進めていい期間ではありません。相続財産の調査に時間がかかっている場合は、家庭裁判所に申し立てることで期間の伸長が認められることもあるので、期限内に判断がつかないときは早めに相談しておくと安心です。

相続まわりの期限は相続放棄以外にもいくつかあり、全体像は以前身内が亡くなったら最初の10か月でやること――相続の期限を時系列で整理してみたにまとめています。あわせて確認してみてください。

相続放棄しても終わらない――残るかもしれない「空き家の管理義務」

「相続放棄さえすれば、実家のことは一切関係なくなる」と思われがちですが、実はそう単純でもありません。

令和5年(2023年)4月施行の改正民法940条では、相続放棄をした人であっても、放棄の時点でその財産を「現に占有」していた場合は、相続人や相続財産の清算人に引き渡すまでの間、自分の財産と同程度の注意をもってその財産を保存する義務を負う、とされています。

改正前は「相続放棄した人は原則として管理義務を負う」という条文の読み方をされがちでしたが、改正後は「放棄の時点で現に占有していた場合に限る」という要件がはっきり明記されました。実家から離れて暮らしていて、片付けにも管理にもまったく関わっていなかった相続人であれば、この管理義務を負わずに済む可能性が高くなります。

ただし、「現に占有」にあたるかどうかはケースによって判断が分かれる部分です。お盆や年末年始に帰省して空き家の手入れをしていた場合などは、占有とみなされる可能性がゼロとは言い切れません。「自分は管理義務を負うのか」を正確に判断したい場合は、司法書士や弁護士に実際の関わり方を伝えたうえで確認するのが確実です。

放置すればするほど増える負担――固定資産税が上がる仕組み

相続放棄をするにせよ、しないにせよ、「決めるまでの間、実家を空き家のまま放置する」こと自体にもリスクがあります。その代表例が、固定資産税の負担が増える仕組みです。

住宅が建っている土地には「住宅用地の特例」が適用され、固定資産税の課税標準が小規模住宅用地(200㎡以下の部分)で6分の1、一般住宅用地(200㎡を超える部分)で3分の1に軽減されています。

ところが、空家等対策の推進に関する特別措置法にもとづき、自治体から「特定空家等」(倒壊の危険や著しい衛生上の問題など、放置することが不適切な状態にある空き家)や、2023年12月の法改正で新設された「管理不全空家等」(このまま放置すれば特定空家等に該当するおそれがある空き家)に対する勧告を受けると、その敷地はこの住宅用地の特例の対象から外れます。国土交通省の資料によると、勧告を受けた敷地は固定資産税の軽減措置がなくなるため、税負担が実質的に大きく増えることになります。

相続放棄をするかどうかを迷っている間も、実家は空き家のままそこに存在し続けます。「結論が出るまで何もしない」ことが、知らないうちに税負担という形でコストを生んでいる可能性がある、というのは覚えておいて損はありません。固定資産税以外の実家じまい特有のお金の話は、実家じまいで絶対にやってはいけない失敗5選――後悔する前に知っておきたいチェックリストでも触れています。

売却・相続放棄・そのまま保有、結局どれを選ぶべきか

ここまでの内容を踏まえると、実家の不動産について取りうる選択肢は大きく3つに整理できます。それぞれの入口になる問いを並べてみます。

まず確認:プラスの財産より借金のほうが明らかに多い、またはその疑いが強い

→ この場合は「相続放棄」が選択肢の中心になります。ただし、放棄を決める前に実家の財産には一切手をつけないことが大前提です。借金の詳しい調査方法や放棄の手続き自体は、司法書士・弁護士に早めに相談するのが安全です。

プラスのほうが多い、またはほぼ借金の心配がない場合

→ 「売却するか」「そのまま保有するか」の判断になります。住む予定も貸す予定もなく、管理の負担だけが続くようであれば、空き家のまま固定資産税の特例が外れるリスクを抱えるより、早めに売却を検討したほうが負担は軽くなるケースが多いです。

財産の内容がよくわからない、調査に時間がかかりそうな場合

→ 判断を急がず、家庭裁判所に相続放棄の熟慮期間の伸長を申し立てるという手段があります。「3ヶ月以内に売却か放棄か決めなければ」と焦って片付けに手をつけてしまうより、まずは期間を延ばして財産調査を優先するほうが、結果的に選択肢を狭めずに済みます。

いずれのケースでも共通するのは、「財産の全体像を把握するまでは、実家の中の物に手をつけない」という一点です。この順番さえ守れば、あとから「売却すればよかった」「放棄できたはずなのに」と選択肢そのものを失ってしまう事態は避けられます。

まとめ:後悔しないための行動チェックリスト

実家じまいは「片付け」から始めたくなる気持ち、よくわかります。ただ、相続放棄という選択肢を手放さないためには、片付けより先に済ませておきたいことがあります。

  • 預貯金通帳、借用書、督促状など、借金の手がかりになりそうな書類がないか確認した
  • 連帯保証人になっていないか、契約書や郵便物を確認した
  • 「自己のために相続の開始があったことを知った日」がいつか、家族で認識をそろえた
  • 熟慮期間(3ヶ月)のカレンダーに、申述期限の目安を書き込んだ
  • 判断がつくまでは、仏壇・位牌以外の遺品や家財に手をつけないと決めた
  • 借金の可能性が少しでもあるなら、片付けを始める前に司法書士・弁護士に一度相談した

全部を今日中にやる必要はありません。まずは、親の通帳や郵便物をもう一度見直してみる。それだけで、実家じまいの進め方は大きく変わってきます。

この記事で触れた内容をもう少し詳しく知りたい方は、以下もあわせてご覧ください。


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この記事を書いた人

親の入院をきっかけに、何も準備していなかったために手続きで慌てた経験があります。相続や葬儀の話は元気なうちは後回しにしがちですが、いざという時に困る人を1人でも減らしたいと思い、実体験をもとに発信しています。

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